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鎧(よろい)を捨てる

 先週末、「自分の小さな”箱”から脱出する方法」(アービンジャー・インスティテュート著)を読みました。

 翻訳のジレンマもあるのでしょうが、書かれてある内容を本当に理解するには少々骨が折れました。とりわけ象徴として用いられている「箱」の意味を理解するためには何度も同じ箇所を読み直す必要がありました。

 この本は、一言でいうなら自己正当化イメージがどのように人間の認知をゆがめ人間関係に好ましくない影響を与えるのかを例を用いて説明しています。専門用語を全く使わずに平易な言葉で書かれていますが、ほぼベックなどが提唱する認知療法の考え方に沿っています。

 2,3日の間”箱って何?”と考え抜いたあげく、「箱」を鎧に変えると日本人には分かりやすいのでは、と気が付きました。今日はその内容の、最も重要な部分だけをご紹介したいと思います。

 人間が「自分は悪くない、間違っていない」と自分自身を正当化しようとする理由は2つしかありません。

 一つは自己欺瞞、つまり自分の本意に反した言動に対し、自分をだますことで抵抗感や罪悪感を解消するため。

 そしてもう一つは、自分の最も見たくない(嫌いな)部分に直面するのを避けるため、です。

 自分を正当化しようとすると、ありのままの自分自身では都合が悪くなります。そのため「私は正しく、思慮深く、価値のある、優れた人間」であるというイメージを作り、「私はそうする(そのように行動する)特権がある」と思いこむ必要が出てくるのです。

 その時人は「箱」の中に入る、と本は説明していますが、それはすなわち見栄やプライド、他人の評価のような「鎧(よろい)」をまとうことに例えることもできるのではないでしょうか。

 自分自身に対する歪んだ自己イメージを持つと、人間は現実の世界を自分の都合のよいようにゆがめて見るようになります。また常に正しい存在であるためには、自分だけでなく周りの人も思うように動いてくれないと困るので、他人を何かにつけコントロールするようになります。

 「箱」に入る、あるいは「鎧(よろい)」を身につけると、人は他人をもはや自分と同じ人間として見ることはできなくなります。全てが自分を中心に動きはじめ、人間関係は自己正当化のための単なる道具になってしまいます。

 さらに鎧(よろい)をまとった人にとっては、自己正当化の妨げとなる人物の存在は脅威であり、相手の欠点を過大に取り上げ、自分は被害者(犠牲者)として相手を非難して当然と考えるようになるのです。この場合、最もやっかいなのは、鎧(よろい)があると狭い自分の世界しか見えなくなるので、自分が相手に何をしているのか、それが相手との関係にどんな影響を与えるのかが全く分からなくなることです。

 この状態では、他人から矛盾を指摘されると大抵が逆ギレして攻撃するか、あるいは終始言い訳を並べて煙をまかれるかのどちらかになってしまいます。

 さて、鎧(よろい)を身につけ続けると、それは次第に体になじんで、最後には人格の一部となっていきます。本当は重くて動くに負担の大きいはずの鎧は、なじむと居心地のよさすら感じるというのです。そして鎧を身につけた人が集団にひとり現れると、それは次第に他へと伝染?していきます。つまり鎧(よろい)をつけた相手から非難や攻撃をされると、気付かない限りはこちらも同じように鎧で武装してしまうようです。そして目に見えない戦いがどちらかが降りない限りは延々と続くことになるのです。

 鎧(よろい)をつけた状態でも、人は他人に援助するなど社会的に好ましい善い行動をとることはできます。しかし、鎧(よろい)がある限りはそれらの行動は結局「自分の正しさを証明するため」であって、本当の意味で人のために何かをすることはできません。また「よい人間でありたい」と思っても、本当にはよい人間にはなれません。同じ行動でも、鎧があるだけでその動機も自己評価も全く違ったものになってしまうのです。

 鎧(よろい)は本来なくても生活できます。鎧(よろい)をたくさん着込めば着込むほど、人は自由を失ってしまいます。鎧(よろい)は人を苦しめているのに、だからといって手放すことのできない人がたくさんいるように思います。

 鎧(よろい)を捨てる、あるいは「箱の外に出る」には、2つのことが必要です。

 まず、自分の中の嘘に気づき、それと向き合うことです。人間関係の問題において、相手ではなく自分自身に原因があるのではないかと疑いはじめること、それは自分のまとった鎧の存在に気付くチャンスなのです。

 そして自分に素直に、正直に生きるように繰り返し努力することです。ありのまま、まっすぐにものごとを見ることが自分のイメージの歪みをなくすために必要不可欠なのです。

 
 この「鎧(よろい)」あるいは「箱」は、家庭や学校、社会と広範囲に見られ、人と人とのつながりを隔てている大きな問題です。自分自身に嘘を付き続けることは、自分だけでなく人をも裏切ることになるのですが、残念ながらそのことに気付いている人は少ないように感じます。

 「鎧(よろい)」「箱」という概念と、それが示す人の認知の問題は、更に人間の性質に関して非常に大きな示唆を与えてくれ、それは私の仕事や私生活における人間関係のとらえ方に重要な変化をもたらしてくれました。


 今日はもう遅い時間なので、次の機会にそのことをご紹介したいと思います。


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Comments

初めまして。このブログを、お休み中に参考にさせて頂いていました。
我が家の不思議君(5歳)が高機能広汎性発達障害の診断を受けているので。再開されて嬉しく思います。
これからも読ませて頂きますので、どうぞよろしく。

Posted by: 不思議母 | 2006.11.08 11:17 PM

不思議母さん、ありがとうございます。
子どもに関する記事も、ちょっとづつ載せていきたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。

Posted by: Sana | 2006.11.09 12:57 AM

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Tracked on 2006.11.08 05:46 PM

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