今週1週間は大学の前期試験が始まるため、非常に忙しくなります。
記事の更新がちょっと難しいかもしれないので、今のうちに書いておきたいと思います。
「親子アスペ」とは、あいち小児保健医療総合センターのS先生がよく使われる言葉で、業界用語に近いです。S先生の定義では親子とも広汎性発達障害(PDD)の事例を言いますが、私は親がPDDで子どもがPDDでなくても、場合によっては親子アスペとして取り扱うことがあります。
自閉症スペクトラムの親子関係について述べる前に、もう一度成人の診断について再確認しておきたいと思います。
少なくとも、自閉症スペクトラムの診断の歴史を見る限り、高機能(知的な発達の遅れがない)で軽度な障害を持つ人が、成人前に発見・診断されるということは、10数年前まではほとんど考えられないことでした。つまり、今の20代後半以上の年齢で思春期までに障害が発見され、そのことを本人が認知しているケースはきわめて少ないわけです。
最近になってようやく、軽度な発達障害の存在がクローズアップされ、子どもだけでなく大人にも同じような障害を抱える人たちがいることが専門家の間でも認識されるようになり、子ども時代に未診断のまま成人となった人たちが予想以上に多いことが分かってきました。
したがって大人になってから障害が発見されるとすれば、今のところは二次障害がきっかけか、あるいは子どもの障害の診断の過程で親の障害が分かる親子診断のどちらかになってしまうわけです。
子どもの発達障害の診断がきちんとできる専門医の数が全く足りていないことは、これまで何度も述べた通りです。さらに大人の診断になると、信頼し任せられる医師やその他の専門家を捜しあてるのも難しいのが現状です。
その理由はいくつかあります。1つは成人の診断については、今の診断基準に照らし合わせて診断しようとすると子ども以上に時間と労力が必要で、しかも診断が確定した後に個人にあった援助を行うだけのパワーも人材の確保もきわめて難しいからです。
大人になって診断を希望する人たちはほぼ高機能のグループに入ります。高機能広汎性発達障害(高機能自閉症とアスペルガー症候群のどちらか)と診断するためには、厳密には少なくとも幼児期(3歳くらい)に3つ組の障害がすでにあったことを証明しなければなりません。生育歴をかなり詳しく尋ねるのはそのためです。本人が覚えている事の方が少ないので、結局母子手帳を持参してもらったり可能な限り家族からの聞き取りが必要になります。
ところが、母子手帳がどこにあるのか分からない、親に面接に来てもらえないということは珍しくなく、そうするとそれ以外の情報から間違いなくPDDだろうと確信できても、診断をはっきりと確定することは難しくなります。その場合、いわゆるPDD Suspected(広汎性発達障害疑い)で終わってしまいます。
十分な聞き取りができ診断が確定しても、本人の状態によってはすぐに障害の説明ができないケースも多く存在しています。また家族の理解が得られないことが子どもの頃に発見されるケース以上に多く、中には「もう大人なんだから、本人で考えてやるべきだろう」と突き放されることも珍しくありません。
では、本人かあるいは家族に障害の説明ができ、かつ理解を示した場合、次にどうするかというと、本人の日常生活の困りごとの1つ1つに、具体的に対応していくことになります。本人が説明を受け入れられる状態になく、先に家族が理解を示した場合は、本人と家族を別々に支援していきます。
成人の診断で最も大切なことは、いかに正確に診断をするかではなく、その人がどのような特徴を持ちどのような問題を抱えやすいかを把握することです。これがしっかりできていないと、予測し得る限りで将来起こりえる問題に備え、さらなる二次障害を予防することができません。本人の努力できる範囲でカバーできない問題に対して、家族だけでなく他の社会資源をどう活用するかということも考えなければなりません。成人は子ども以上に社会性の成熟が求められるため、支援もそれだけ範囲が広がらざるを得ないのです。
本人や親への対応は別枠でなされるので、それだけ時間を確保する必要があります。私が姫路で今2組の成人親子のケースを担当していますが、1日6人という枠で、しかもPTSDの治療を希望し面接している患者さんの数とのバランスを考えると、今の勤務スケジュールでは2組が限界です。月に3日の勤務で、全部で延べ18人のケースを見ることができますが、そのうちの3分の1はこの2組の親子の面接に当てられているのです。そして残りの12枠の面接の中には、発達障害の診断のための面接が含まれています。
成人のケースは、子どものケースよりさらに慎重な対応が求められるため、非常に神経を使います。そのため例数は少ないように見えますが面接が終わるとへとへとになることもしばしばです。しかも子どもの場合と同じく長期的な関わりが必要で、それだけエネルギーも必要です。
このような診断・支援の煩雑さや複雑さから、成人の診断・支援に熱心に取り組もうとする専門医や専門家が育ちにくい状況が生じています。子どもを診ることができるからといって、大人も同じように診られるかというと、必ずしもそうではありません。また子どもだけで手一杯で、親の方まで手が回らないほど忙しいのも事実です。あえて大人の診断を避ける専門医も少なからずいるようです。
さらに、一般の精神科医の、大人の発達障害への関心が低いことも、人材不足のもう一つの理由としてあげられます。潜在的な多さを考えると、ひとりの専門医に集中することは決して効果的ではありません。うつなどで病院を訪れた患者さんが、発達障害も抱えていそうだと気づくことのできる精神科医が増えてほしいと切に願っています。
このように、時間とエネルギーを使ってでも成人のPDDにこだわり続けるのは、「親子アスペ」の問題があるからです。二次障害を持つ大人のPDDの多くは、子ども時代にいじめを経験しているか、親子関係に深刻な問題を抱えています。しかも親のどちらかが同じような問題を抱えているのではないかと考えられるケースが非常に多いのです。
また、子どもが先に障害の発見・説明を受けたケースで、親に同じ障害がありそうだと判断される例についても、子どもは幸い専門医や専門的な支援が受けられても、親の支援が後回しになることも少なくありません。どちらの場合も、親子関係を安定化させるには、お互いの特徴や問題点が明らかでないと適切な対応はできませんし、親子ともに発達障害があると、親子関係を不安定にしてしまう要素が、そうでない場合に比べて非常に多く、それだけ将来二次障害を起こすリスクが高くなります。
子どもの健全な発達と二次障害の予防を考えるなら、成人の診断と親子アスペの問題を避けて通ることができないのです。
さて、前期試験の準備があるので、続きは後日にします。
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