まっすぐに前を向いて
タイトルは映画「レーシング・ストライプス」の台詞です。
レースを間近に控えたストライプスに対し、最後に与えられたアドバイスがこれです。
「振り返るな。まっすぐに前を向いて、無心になれ」
映画を見終わってから2日が経つのに、まだ私のこころを捉えて話しません。何かガツンと一発やられたような、それでいてこころの奥に響くような、そんな不思議な感覚を抱えています。
かつてアメリカの大学院で学んでいたときは、まさにこの心境でした。英語力もほとんどない状態で、今思えば無謀とも言える挑戦をして、それでも全く後悔することも、恐れることもありませんでした。今よりもはるかに多い勉強量に加え、言葉の壁と子育てと、どうやって課題を達成できたのか、今もよく分かりません。
その時の私は、何も考えていませんでした。いや、正確に言うと、目標以外の事は全く視野に入りませんでした。ただ授業をスケジュール通りに淡々とこなしながら、常に一つのことしか頭になかったのです。
私にとっては、大学院を卒業することが最終目的ではありませんでした。…何故か卒業はできるものと信じていたからです。(後になって卒業がいかに難しいかを知らされたのですが)
ただ一つの目標とは、「虐待される子どもたちを一人でも少なくする」ということでした。
卒業までは順調にいきました。しかし、その後はなかなか望むような仕事につくことができず、何度も挫折しそうになりました。そして師匠の助けがあって、トラウマケアに関わるようになり、そしてさらに博士課程のある大学院にも進学しました。
トラウマケアを研究テーマにするという私の希望は、やはり介入研究の難しさから方向転換を余儀なくされ、また仕事上もトラウマケアよりむしろうつ病や不安障害の心理療法に移ってしまい、気がつくと、自閉症スペクトラムをはじめとする発達障害の人たちへの支援が主流になってしまい、当初の目標から離れてしまう寂しさもどこかで感じていました。
先週、学会のシンポジウムに参加し、被虐待児のケアに関わる専門職の人たちの話を聞いていて、はっと気がつきました。虐待された子供のケアに関わるためには、虐待と発達障害の両方に関する知識と援助経験が必要だということに。
回り道はしているけれど、決して目標からははずれていなかったのです。
目標から目をそらしてしまう原因は、本当は別のところにありました。
大学院も上に行けば行くほど、人間関係が複雑になり、見えない所での駆け引きなど臨床以外で気を遣うことが増え、またどのような仕事を引き受けるにしても、周囲との調整が必要になってきます。そのような状況で自分のやりたいことを貫けば、周囲との摩擦を避けられない状態にありました。それを避けるために、できる限り和を乱さないようにすることに、多大なエネルギーを使っていたのです。
でも、上記の台詞を聞いたあと、大切にしなければならないものは、思ったより多くないことに気付きました。
今はまっすぐに前を向いて、ただ一つのことに集中しよう、改めてそう決めました。そうすることできっと、また新しい出会いがあり、そして仕事も含めて、目的を遂げるために必要なものが最も良いタイミングで与えられるだろうという気がします。
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