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子のこころ、親知らず

 「生まれてきてごめんなさい」を書いた後、大学の学生さんから親子関係に関する相談を受けました。

 ひとことで言うと、「母親とうまく話ができない」という悩みを抱えている人でした。2回ほど面接して話を聞いたかぎりでは、虐待などの問題はなさそうだったのですが、どうやらお母さんが、本人を傷つけるつもりはなくて、何気なく言った一言がずっと頭から離れずにいて、それ以来お母さんを意識的に避けたり、話そうとしてもうまく話せないというのです。

 この出来事は、今から10年ほど前に起こったことで、周囲はよそよそしい本人の態度を思春期によくある反抗期、という見方をしていたようでした。ところが大学に入学しても状況がほとんど変わらず、親との関係を修復したいのですが何かいい方法はないんですか?、と私に尋ねてきました。

 そこで、イメージ療法(催眠ではありません)を使って、「お母さんにその一言を言われた時に本人が何を感じ、どう考えたか」を思い出してもらいながら、その子が言いたかった事をその時に戻ったつもりで(イメージの中で)伝えてみるという方法を試みました。

 一言づつ、ゆっくりとワークを進めていくうちに、学生さんは、自分が生まれてきた価値がないとずっと思ってきたことや、周囲に迷惑をかけてきたことへの強い自責の念を持っていることを泣きながら話し始めました。

 私の目から見て、個人的な相談を受ける以前から、軽度の発達障害を抱えているのではないかと思っていた人だったので、彼の話を聞きながら、なぜ母親の一言にこれほど強く反応したのか、その理由が分かる気がしました。

 しばらくそのままワークを続けたら、言葉で気持ちをある程度表現できたこともあって、次第に本人は落ち着き、当時の事を大分冷静に受け止められ、母親へのわだかまりを少しずつなくしていきたいという気持ちになれたようでした。その面接の最後で、彼がぽつりとこうつぶやいたのです。

「私は、本当はお母さんのことが大好きなんだって、今気がついたんですよ」

 その学生さんは、私とのやりとりの中で、自分もうまく母親に気持ちを伝えられなかったし、また母親自身もとても不器用な人であったことに気付いたようでした。母親からすると、「これくらいの事で傷つくなんて」というほど小さなことだったかもしれないけど、言われた方にしてみれば「自分は生まれた価値がない」という思いを余計に強くしてしまうような体験になってしまったのだと、本人は私に話してくれました。


 面接の後、しばらくいろんな事をふりかえっていて、ああ、そうか、と気がついたことがありました。

 私自身も、子供のときに母親にはいろいろと怒られただけでなく怖い思いもたくさんして、それがずっと外傷体験として記憶に残ってしまったのですが、それでも私は母親の事が本当は好きだったのだと思います。

 その思いをきちんと伝えることはできませんでしたが、子供なりに母親のことを考え、情緒不安定で時々衝動的な行動に走る母親のことを、ずっと心配していたんだと思います。

 でも、母親からみると、私は明らかに「育てにくい子」でした。母親が期待するような行動ができなかっただけでなく、母親が私に分かって欲しいと思っていた通りには、母親の気持ちを理解できていなかったのではないかと思います。

 発達障害には、相手の気持ちや状況を理解するのが困難、などのコミュニケーションの問題があることは周知の事実ですが、ふと、これはもしかしたら理解できないというのとは少し違うのではないかと気がついたのです。

 言葉でも、非言語的なメッセージでも、確かに適切に読みとり理解する点に問題のある場合も多いです。しかし、それでも自分の持てるスキーマを使いながら、ちゃんと親のことも周囲の事も理解しようとしていて、ただ理解の仕方が周囲の予測するものと多少違っていたり、あるいは理解力がある程度あっても、それを表現する手段が適切でないために、相互のコミュニケーションが維持できないのではないかと思いました。

 親子関係は、社会性の基本であり、発達障害の人にとっては貴重な人的資源であると共に最も問題が起きやすい関係でもあります。親の立場からは理解しづらいことはたくさんありますし、子供とのコミュニケーションをどう改善していけばいいのか、課題はその時の発達段階に応じていろいろと出てくるでしょう。

 本来人間には、「人が自分と同じようにものごとをみて当然」といった、身勝手な思いがどこかにあって、意見や気持ちが合わないと、「なぜ相手は分かってくれないの」という不満を相手にぶつけてしまうこともあります。「親のこころ、子知らず」とはよく言われますが、「子のこころ、親知らず」なことも、少なくないのではないでしょうか。

 ですから、発達障害の子供と親とがある程度落ち着いて生活していくためには、単に子供の社会スキルやコミュニケーション能力を改善するための援助だけでなく、親が柔軟性のある視点を持って子供に対応していけるように、時には第三者の介入や具体的なアドバイスといったものが必要になるのではないかと思います。


 
 

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Comments

少し話しずれていますが、母について思ったことをTBさせていただきました☆

私の世代(30代)のADHD当事者が、今ぞくぞくと出てきていますが、
親子関係に問題を抱えて生きてきて、そのまま引きずっている人が大勢います。
今私達は情報を知り得て対応しようとできますが、当時は何の情報も
なかったのですから、仕方がない部分もありますが、親に感謝の気持ちを
持てない、というのはやはりその後の人生にも陰を落としそうで気になっています。

自分の中に凝り固まってしまったものと向き合うのは辛い作業ですが、
一人ではない、治療者とともにできるというのは大きいです。
発達障害者支援法がうまく適用されて、良い臨床心理士が増える事を
願ってやみません。sanaさんは先駆者ですからこれから大変かもしれません。
頑張って下さいね、私も自分でできる限りの事をしていきたいと思っています☆

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