薬の功罪
今日はまたまた台風の接近で、小・中・高と全部学校がお休みになりました。
私がこっちにきてから、もう何個目の台風だろう…?沖縄なら、毎年のことだから、「あ、またか」というところですが、ここは九州、やっぱり私の移動に伴い、くっついてきたんじゃなかろうかと、ふと考えます。(やはり台風には愛されているようで)
おかげで、ぴょろだけでなく、私の仕事もお休みになりました。
どこにも出かけられないので、これから家で金曜日の講義の準備をします。来週火曜日から、別の大学と専門学校で講義を持つことが決まり、来年2月までは忙しくなりそうです。
先週、看護学科の学生さんたちに、1時間をフルに使って自閉症の話をしました。今月の中旬まで、発達心理学を教えているのです。カナータイプの自閉症について、多少の予備知識のある学生さんもいたようですが、今回私は高機能自閉症、アスペルガー症候群について、詳しく説明をして、それから「レインマン」の一部をみんなに見てもらいました。
講義のあと、一人の学生さんがアスペルガー症候群について、もっと知りたいと質問に来てくれました。どうやら、私が説明した事は、ほとんどの学生さんたちには始めて知ることが多かったらしく、普段は眠そうな彼らも、2コマ連続の講義にもかかわらず、寝ないで聞いてくれていました。
来週から始まる、専門学校(作業療法士の学校)の授業でも、同じ話をする予定です。こうやって少しずつ、自分にできる活動をやっていきたいと思っています。
高機能自閉症やアスペルガー症候群の診断は、専門的なトレーニングを受けた医師でも意見が分かれることがあるということは、以前にも触れた通りです。それは、典型的な(つまり、見てすぐに分かるほど症状がはっきりしている)例が少ないから、だと思っています。
高機能自閉症の人の多くは、いわゆるatypical(非定型)なもので、とりわけLD(学習障害)とADHD(注意欠陥多動性障害)と多くの点で重なりがあり、「どっちの診断をつければよいか」ベテラン医師でも迷うことがあるようです。
そのためか、ある病院ではLDやADHDと診断されたけど、別の病院では高機能自閉症と言われた、というケースが少なくありません。私たち心理職の見立てと、医師の診断が食い違うことなんて、しょっちゅうあります。(お医者さんによっては自分の意見を絶対曲げない人もいる)一番気の毒なのは、専門家の意見や診断の相違に直接影響を受けている、当事者だと思うのですが…発達障害に関しては、自閉症かそうでないか、ちょうどその境目にあたるケースの場合は特に、それぞれが独自の判断基準を持っているのか、なかなか細かいところで意見の一致を見ないのが現状です。
最近になって気付いたことの一つは、どうも医学モデルというのは「まず症状ありき」という考え方のようだということです。だとすると、高機能自閉症のような問題は、目に見える行動や症状という視点から捉えようとすると、誤解される危険性が当然高いだろうと予測できるのです。
例えば、大人の高機能自閉症の場合、症状だけを見ると、「統合失調症」や「躁うつ病」とよく似ているところがあります。アスペルガー症候群の大人の鑑別はもっと難しく、人格障害と間違われることも決して少なくないように思います。
その時に、詳細な生育歴の聞き取りが重要な情報源になりますが、これも本人から聞いただけでは十分でなく、家族に来ていただいて訪ねても昔のことだから良く覚えてない、と言われることもあります。時間がさかのぼればさかのぼるほど、正確な情報を得る事は難しくなっていきます。
そこで心理テストの登場なのですが、心理テストも完全ではなく、高機能自閉症やアスペルガーの診断の上では補助的なものでしかありません。
そんななかで、高機能自閉症やアスペルガー症候群の診断がなされるのですが、さらにもう一つ困った問題が生じます。
パニックや他の二次障害(随伴症状)をどう治療するか、ということです。
大人の高機能自閉症の人には、高い割合でうつ病、強迫性障害や身体表現性疾患(心身症)などの合併が見られます。また、睡眠障害を抱えている人も非常に多いです。
そういった「困った症状」を緩和するために、抗うつ剤や抗不安薬などを使うのですが、高機能自閉症がない人と比べると、投与量も多く、服用期間が長くなりがちです。どんなに優れた薬でも、症状を50%程度しか抑えることができないので、複数の薬を使わないと期待した効果が得られないという欠点があるのです。(逆に複数の薬を使うことで薬の作用の相殺が起こることもある)
さらに、自閉症特有の感情のコントロールの問題やパニックを少なくするために、メジャートランキライザー(統合失調症の薬)が慣例的に使われています。もともと鎮静作用のあるお薬なので、イライラは多少沈めてくれますし、リスパダールのようにパニックの回数を減らすことの出来る薬も存在します。また統合失調症の薬は、頑固な不眠がある時には効果を示すことがありますので、それなりの利点はあります。
しかし、忘れてはならないのは「薬は一時的にそれらの症状を抑えてくれるだけ」なのです。
結局は、コントロールの方法やパニックを回避するための環境整備など、薬以外での援助なくしては、薬を使う意味があまりないのではないか、と個人的には思っています。
症状から見ると混乱しやすい高機能自閉症やアスペルガーですが、高次脳機能の障害という観点から見ると、理解がしやすいように思います。前頭葉や側頭葉など、大脳皮質のいくつかの部分の活動低下や、大脳辺縁系(脳の中心に近い部分、視床とか海馬とか、扁桃体などがあるところ)の過活動など、脳機能のバランスの崩れとして見ると、なぜLDやADHDと症状が重複しているのかも説明ができるからです。
ぴょろはADHDですが、多少アスペルガーの特徴も持っています。感情のコントロールはあまり良くなさそうですし、言葉の使い方が多少おや?と思うことがあります。しかし、注意力が低下していなければ、周りの状況や他人の気持ちや立場は援助なしで理解できているので、やっぱりアスペではないなあ、と思っています。
子供たちにも大人にも、「どっちか分からない」自閉症とLD,ADHDの中間にいる人たちがたくさんいるように思います。そうして、目に見える症状の違いから、違う診断、違う投薬治療が行われているのかなあ、と思うことがよくあります。
個人的には、専門家に「高次脳機能の障害の一つとして、目に見える症状だけでなく、その背後にある共通点に基づいた診断治療を行っていく」ことを願っています。そうすることで、誤診や無駄な投薬を少しでも減らせるように、また症状をなくすことでなく「生きにくさを改善する」という視点で、長期的な視野に立った支援ができるように、私も大学の講義や研修会などで、できるだけ働きかけていきたいと思います。
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