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大人のアスペルガー症候群(suppl.)おまけ

 前回の記事を書いてから、ちょっとお休みをしました。
まだいろいろな気持ちがあって、どんな言葉にすればいいか分からなかったからです。コメントを下さった皆さん、ありがとうございました。お返事ができず、すみません。

 前の記事に、少しだけ付け足しておきたいと思います。

 アスペルガー症候群と一言で言っても、人により直面する問題は少しずつ違います。アスペルガー症候群に限らず、高次脳機能に障害があると、他人の表情、声、話し方など、言葉以外で伝わるメッセージを読み取りにくくなります。また、その場の雰囲気とか場の空気を読み取るといった、脳に送られる一つ一つの情報を統合・分析し、その結果から推測するという作業が難しくなります。

 そのような働きの不具合が、ある時は、相手の本音と建て前を見分けにくいという問題になって現れ、別の時にはその場の状況や相手の気持ちに合わない発言や行動として表れます。人のコミュニケーションは、文字通りの言葉のやりとりだけでなく、実は言葉以外の情報交換によって成り立っているのです。

 アスペルガーの大人例の中には、その不具合を高い知能や経験で補っている方々がいます。彼らは少なくとも、自分がどう振る舞ったときに人がどう反応するかという事を理解しています。しかし、どう対応すれば、相手にも自分にとってもいいのか、その具体的な方法を自分で編み出すということができないように思えます。体験から学んだことを、そのときの状況に応じて少しずつ変えていく、つまり応用するということが苦手だからです。したがって、一度こうやったらうまくいった、という記憶を頼りに違う状況でも同じ方法で対応しようとします。その結果うまくいかなかったとき、やり方を変えるという選択肢がなくなると、うまくいかなかった原因を自分以外に探すか、そうでなければ、自分自身がだめだからと否定的に考えやすくなるのです。

 言語の理解力という点では、やはり他の自閉症スペクトラム障害に共通するものがあるので、「こうすればいいのよ」と口で言うだけでなく、実際にロールプレイなど、体や五感をフルに活用することで、より相手は理解しやすくなります。SST(社会スキルトレーニング)のプログラムは発達障害にも十分に応用できる、非常に優れたものだと思います。情報の受け手としての訓練だけでなく、どう自分の気持ちや考えを表現すればいいのかを少しずつ身につけていくことが、彼らの潜在的な能力を社会で生かしていく上では重要なことではないかと思います。

 さて、私は、配偶者の言動について、それがなぜ起こるのかということはある程度理解できるようになりました。そして、今までの臨床経験から、私が本人に対してできることと、あきらめて受け入れるしかないことが何なのかも、少しずつ見えるようになりました。

 それなのに何故、私がうつになってしまっているのか、その一番の要因は配偶者の予測不可能な感情の爆発です。パートナーとして最も介入がしづらい部分、それが相手の感情面だからです。

 カウンセラーとして患者さんたちに接するときには、私自身にはっきりとしたboundary(境界)意識があるので、相手の態度に私が感情的になりそうなとき、いつどこでどう対応すればいいかというある程度の行動基準を持っていて、一人で抱えられない時に他の同業者の援助を受けるという選択肢も準備されています。だからかなり難しいケースでも、自分を見失わずにやっていけるのです。

 しかし、身内の場合は大分状況が異なります。どうしてもこちらも感情的になりやすく、それが悪循環となり最後には暴力へと発展してしまうのです。

 発達障害をもつ大人のパートナー(恋人、配偶者、友人など)の大半は、相手を何とか理解し援助するための努力を続けている人たちだと思います。その中に、私と同じような悩みを抱えている人が必ずいるだろうと思ったので、あえて私は配偶者の暴力について書きました。

 確かに、対応次第では、相手の「困ったこと」を少しずつ解決することはできるかもしれません。しかし、相手の気持ちや立場を考慮し、感情の爆発に黙って耐えている人たちも少なくないと思います。アスペルガーに限らず、高次脳機能障害に関連した、感情コントロールの問題は、家族やパートナーが一人でがんばってどうにかなるものではありません。特に明らかな暴力がある場合、危ないと思ったら一時避難する手段を用意しておいてほしいと思っています。逃げることは、相手を裏切ることでも見捨てることでもありません。「自分さえがまんすればいつかはおさまる」と思うことは、逆に相手が自分自身を見直す機会をうばってしまうことになるかもしれません。

 第三者へ助けをどう求めたらいいのか、その答えはまだ私も探している最中です。

 専門家といっても、大人の発達障害をきちんと診断し治療的な介入ができる人は限られています。そのような人がどこにいるのか、という情報も不足しています。本来は、同じ悩みを持つ方々のサポートネットワークが必要なのですが、その点は、私の今後の課題でもあります。

 今わずかながら分かっていることは、子供の発達専門医(小児精神科医)や少数の精神科医で発達障害に詳しい人がいるようだ、というくらいです。本来は臨床心理士、社会福祉士のような他業種が一つのチームとして関わるべきだと思いますが、地域差や専門家自身の意識の違いが大きく、それぞれがバラバラに援助に携わっているという印象がまだ強い気がします。

 どういう形でも、相談できる相手を必ず持っておいた方がいいと思います。決して孤立して自分を追いつめないようにしてほしいと思っています。

 私は、配偶者の事が決して嫌いではありません。コミュニケーションが難しいし、共感できたという体験が非常に少ないことは残念だけど。それでも、暴力さえなければ、ここまで苦しまなかっただろうと思います。

 DVや虐待という問題だけをみると、確かに目の前で起こる行為をやめさせることに注意がいきがちです。しかし人の生まれてから今までの個人史やライフスパン(発達段階)といった観点からみると、こういう出来事は、その人の歴史の一部でしかないことに気づきます。発達障害との関連性も、この視点からでないと見えてきません。

 本当は、その人の歴史を十分に考慮し、評価した上で、こういった問題に対応していかない限り、一時的に行為をやめさせることはできても、再発を防ぐための十分な対応が難しくなるのではないかと思っています。実は、暴力というのは結果であって、その背後にある感情コントロールの問題を解決することは、その人の生き方(中でも価値観や問題への対処法といった複数の社会的機能)の根本を変えるほどの大作業なのです。そして発達障害の存在が、この作業を行う上でどう干渉しているのかを考えないでは、適切な介入は不可能です。

 発達障害とそれに伴う問題は、複雑で解決が難しい、だからこそ、絶対に家族だけで抱え込まないでほしいと思います。


 私は、ぎりぎりのところでやっと気がついたけど、このブログをみてくださる方には、決して私のようにならないでほしいと願っています。


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Comments

いろいろと書いていただきありがとうございます。
実は、以前ホームヘルパーの講座を受けたことがあります。
そのなかで、qol(生活の質)・adl(日常生活能力)を良くするということがありました。
デイケアの話ににもありましたが、いまの制度で発達障害者にqol・adlを当てはめることなんて皆無なのです。
つまり、デイケアはadlを身に着けないうちに人とのコミュニケーションを身につけるのは疎外感にさいなまれるだけで症状があっかさせるのです。それによってqolの向上は出来なくなるのです。
集団ですると言うことは、裏を返せば自決能力を失うことになるのです。
私が身につけたいのは自決能力を身に着けることなのです。
今の制度のままじゃたとえ就職が決まったとしても繰り返されるだけなのです。
発達障害者にとってのqolはこだわりを活かすことにあるのではと考えます。

Posted by: みっちゃん | 2004.08.11 at 11:30 AM

確かに、そうかもしれませんね。
これらは、発達障害の多くに共通する課題だと思います。

こだわりをうまく生かす方法を、見つけていけるといいですね。

Posted by: Sana | 2004.08.12 at 07:05 AM

 初めまして、私はADHD当事者で、みっちゃんに教えてもらって
こちらにお邪魔しておりました。
軽度発達障害者が持ってしまった悪い癖(暴力・暴言・自傷等々)
を治して行くには、仰るとおりサポートが絶対必要であると
感じています。ただ、当事者本人がそれを「問題意識」して
治そうという気持ちがなかったり、意識しておらず「個性」
と捉えてしまっていると、サポートする側がどうアプローチ
しても、結果は悪化するばかり、ということもありますよね。
そこがとても難しいです。

当事者間で自助努力をと自助グループを立ち上げて活動して
いますが、今そういう壁に当たってしまい悩んでいる最中です。
お互いに傷つきやすく「思いこみが多く」自らを掴みかねて
いるので、社会性のスキルが低い仲間に手助けをするという
のはかなり難しく、専門知識のある治療者が少ないことは
非常に辛いです。Sanaさんのように勉強してくださる治療者が
増えて欲しいと心から願っています。

Posted by: 透雪(ゆきこ) | 2004.08.12 at 01:09 PM

やっぱり「こころの病」は 難しいなと痛感します。
一般社会の無関心 無理解 偏見など 問題があまりに多いです。
私は 二つの うつ自助グループに参加していますが 皆さん やはり 社会の無理解に悩んでおられます。
私自身 障害者手帳(3級)を持っていますが 仕事を探すにあたって
やはり 大きな壁に なることは 間違いないでしょう。

Posted by: 天翔ける人 | 2004.08.13 at 11:24 AM

>透雪さん、

確かに、当事者同士のサポートにも、難しさや限界はあると思います。しかし、グループでないとできないこともあるので、医師や臨床心理士、社会福祉士(精神保健福祉士)などいろんな専門家を巻き込んで、その良さをどうすれば引き出せるのか、一緒に考えて試していく、という方法もあるように思います。

また、グループはファシリテーター(グループの責任者)の力量もあるので、いろんなグループとの交流を図ることも必要なのでしょうね。

大人の発達障害についての知識や経験のある専門家が少ないのは事実で、それは本当に大きな問題だと思います。このあたりは(私は心理職なので)同業者の研修会の機会を増やすことや、論文・研究発表などで専門職の養成に携わる人たちに啓蒙していきたいと思っています。

確かに、苦労は多いとはお察ししますが、それでも続けていけるようにと願っています。

>天翔ける人さん、

 周囲の無理解が、いちばんうつには堪えますよね。休職している人でも、職場復帰に対する不安や問題はつきもののようですし、退職して再就職の時に、こころの病が壁になることもあると思います。

 少しでもこういった問題に対する、社会の理解が進むように、私たちもできる限りがんばりたいと思います。

 

Posted by: Sana | 2004.08.13 at 09:31 PM

大人のアスペルガー障害に関して情報を探していたところ、まとまった記述があり、参考にさせていただきました。なぜ、このような記述を探していたのかというと、私の職場に、アスペルガー障害と思われる女性がいるからです。私は専門家ではないので、間違っているかもしれませんが、いろいろなサイトや本でみた症状にかなり合致する部分があります。
問題は、職場での仕事上だけの付き合いなのですが、アスペルガーの人とどのように接したらよいのかがわからない点です。
私から見ると、
・自分の世界の言葉で喋りまくり、相手が理解しているかを考えない
・仕事上の議論が、「ああ言えばこう言う」みたいな口応えにしか聞こえない。
・みんなが課題と感じている内容を共有できないため、独りよがりの発言ばかり。
・現実のデータに対する具体的な操作は、とことんやってしまう。全体を見渡せないので、その結果やりすぎとなり、無駄が発生する。
・物事を頼んでも、その依頼の背景を理解せず、文字通りのことしかやらない。
・自ら進んで計画を立て実行しない。
など、一緒に仕事をする立場からすると、困ってしまう行動が目立ち、苛立ってしまいます。苛立つのは、私のパーソナリティによる部分も多いかと思いますが、この苛立ち(不快感)は、一度仕事上のやり取りを行うと1日以上持続します。
要は、アスペルガー障害の人に接したときに生じる私の中の違和感や苛立ちをコントロールできないのです。正直に言うと、一緒に仕事をしたくありません。
たぶん、相手を変えるのは無理だと思うので、大人のアスペルガー障害の人に、どのように接すればよいかのノウハウみたいなものがあれば、よいのではないかと思い、自分でも考え、また、いろいろ探しているのですが、まだ解決できていません。
なにか、ヒントになるようなものはないでしょうか。

Posted by: monami | 2008.04.29 at 10:14 AM

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