« 親離れ子離れ | Main | 混乱のもと »

愛情と信頼(2)

 ついさっきまで、師匠の送別会に参加し、自宅に戻ってみると、誰もいませんでした。
それから30分ほどで、配偶者が玄関を開ける音が。

 それから5分くらい後に、ただいまー、と言いながら私の部屋のドアが開いたので、おかえり、と言おうと後ろを振り向いたら、洋服も下着も何もつけていない配偶者が立っていました。

 ぎゃー!! 

 私の部屋の向かいはお風呂場なので、こういう事は始めてではありませんが、今日は楽しい事があった(いろんな人とお話ができた)後で気分がよかったのに、一瞬で現実に引き戻された気がしました。 

 私は今結構神経が過敏になっているので、時々配偶者の予測不可能な行動でびくっとさせられます。

 
 今年の春、あるワークショップに参加した時に、講義の最後にあるビデオを見ました。

 国際養子縁組で、北ヨーロッパからアメリカの養父母のもとへやってきた、ある子供の治療の場面です。この子供は生まれてすぐ捨てられ、孤児院で数年間過ごした後で、養父母に引き取られるのですが、どうしても養父母のケアを受け入れられず、適応障害になっていました。

 その治療とは、以前から何度も紹介している、眼球運動による再処理と脱感作(EMDR)という方法です。ビデオの中では、眼球運動(25往復前後)の数セット目で、その子が泣きたいのを必死にこらえながら、治療者の指の動きを追っている場面が出てきます。一番悲しい場面(親に捨てられたこと)を思い出していることは、容易に想像ができます。しかし、それから急に、本人の表情が和らいで、最後には笑顔になったところでビデオが終わります。

 EMDRについては、ここでこれ以上詳しく触れませんが、とにかく非常に印象的な治療法です。

 さて、何らかの事情で、子供の時に十分な愛情を受ける、あるいはニーズを満たせなかった場合、人を信頼するのは難しいということは前回触れた通りです。愛情を与える相手を離別や死別で失った場合は、失った事への悲しみと向き合い、それを受け入れ、乗り越えていくという、喪の作業と呼ばれる過程を通り、人は別の相手との人間関係を再び作っていけるようになります。

 子供時代の虐待や、アルコール依存症の家族の場合にも、状況によっては、何らかの形で離別を体験することになります。施設に保護される事で、家族と別れることになりますし、片親の家出や離婚で、家族が離ればなれになることもあります。それ以外にも、彼らは成長する中でたくさん失っているものがあるのです。

 その失った悲しみを、十分に表現できる安全な場所を持たないために、自分自身の中にしまい込んでしまっている、そのために、十分に自分の気持ちと向き合う機会がないまま、成長せざるを得ないのだと思います。

 そうして、他人との適切な距離をとることができず、十分な信頼関係を築くのが難しい状態で、まだいやされない、満たされない心を抱え、失ったものの代わりを求め続けている、それが、子供の虐待被害者や依存症の家族に共通した特徴なのだと、私は思っています。

 例えて言うなら、本来他人との関わりの中での感情的な交流をブロックしているものがある、それが、トラウマであり、何かを失った(しかも十分に悲しめていない)体験なのでしょう。

 そこから、立ち直り、新しい人間関係から信頼することを学び、愛情を得るには、かつて十分に悲しめなかった、過去の出来事を改めて悲しむ、喪の作業が必要です。

 自分の悲しい気持ちと向き合い、乗り越える作業は、一人のひとの中で静かに行われる場合が多いです。しかし複数のトラウマを背負っていたり、状況が複雑な場合、見守り役の人が必要です。そうして少しずつ、信頼を回復し、愛情を感じられるようになるまで段階的に介入していくのです。

 このプロセスを通らずに、愛情やケアだけを与え続けても、相手の心にはなかなか届かないのです。

 そして、悲しみの作業を終えることで、ありのままの自分でも愛してくれる人もいることを理解できるようになっていきます。また、自分の気持ちを受け入れると、自然に周囲の状況をもっと冷静に見つめることができるようになります。そうやって、成長過程で失われたものを、少しずつ取り戻していく作業が始まるのです。


 喪の作業は、自分の一番辛い記憶と向き合うことを求められるので、勇気も必要です。この作業は、自分自身を知るためのものでもあります。自分を信じられるようになるには、多少長い道のりは必要かもしれませんが、その過程での出会いが、少しずつ生き方の方向性を見つける手助けをしてくれることもあるように感じます。

 そろそろ眠くなってきました。次回に続きます。

|

« 親離れ子離れ | Main | 混乱のもと »

Comments

Sanaさん お久しぶりです(^^)
コンディションよさそうですね!

この記事とても参考になります。続きがたのしみです。

Posted by: カイパパ | 2004.08.20 at 06:21 AM

カイパパさん

 お久しぶりです!
コンディションですか?うーん…。
ブログは頑張って続けてますよ。(^_^)

Posted by: Sana | 2004.08.20 at 07:09 AM

sanaさんこんにちは。
なんどもお邪魔してスミマセン。
今日の記事を読ませていただいて、昨日のsanaさんからのコメントの意味が分かったような気がしました。
あまり知識のない私が、下手に対応してしまうと返って彼を苦しめたり傷つけたりすることもありそうですね。
自分の出来る範囲で、もう少しだけでも優しくなれるよう努力してみます☆
もう定年もとっくに過ぎ、第2の人生を穏やかに過ごしている父へはもっと親孝行しようと思いました。

記事の続きは楽しみですが、sanaさんどうぞご自分のお体も大切になさってくださいねm(__)mそちらのほうがとても心配です。

Posted by: ちょこりん | 2004.08.20 at 08:36 AM

ちょこりんさん、

お気遣い、ありがとうございます。

Posted by: Sana | 2004.08.21 at 12:22 PM

こんにちは。いつも拝見させていただいてます。

過去にとらわれた文章をただ書いているだけの自分をイヤだと
思いつつも、書かないと先に進めないような気がしていました。
それは自分自身を知る作業、自分を信じる作業だと思うから。

この文章を拝見して、今自分は喪の作業中なのだと感じました。

のちほどコチラの文章にTBを送らせていただくかもしれません。
MTのバージョンをあげてからはじめてなので、失敗してしまう
かも知れませんが、おかしいときは削除してくださいませ。

Posted by: 木苺 | 2004.08.23 at 11:05 AM

木苺さん、
いつも来て下さってありがとうございます。
私も、木苺さんのブログ、いつも拝見させてもらってます。
トラバは大歓迎です。よろしくお願いします。


Posted by: Sana | 2004.08.23 at 11:52 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/10227/1231751

Listed below are links to weblogs that reference 愛情と信頼(2):

» 喪の作業 [RASPBERRY*RED]
私は、今まで自分のココロの中に詰め込んだモノを整理するために、ここで文章を書いて... [Read More]

Tracked on 2004.08.26 at 07:24 PM

« 親離れ子離れ | Main | 混乱のもと »